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さて、私たちは日本語を話す怪しい男についていくことにした。
彼は人で溢れかえるマーケットの中をグングン進んでいく。私たちはそれについていくだけであったが、初めて見る品物や大変な賑わいを見せる異国の市場に刺激を受けていた。
ひとしきり歩くと、男はとある店の前で立ち止まった。「ここがクッキーの店だ」という男の前には想像以上に美味そうなクッキーが並んでいた。

私は旅の道中で食べるためのクッキーを買い、男に礼を言った。すると男は他にも欲しいものは無いか?と尋ねてくる。私が悩んでいると、「例えば紅茶とかはどうだ?」と提案が来た。私は紅茶には興味が無かったので、「何か現地で有名なものは無いか?」と尋ねた。すると、男はうちの店にあると言い、私たちを案内すると申し出た。この辺りで警戒心の強い私の友人は私を引き止めたが、私は気に入ったものがなければ買わなければ良いのだ、と流れに身を任せて店までついていくことにした。

マーケットのさらに奥に進むと、長年商売をやっていそうな割と小綺麗な店の前に着いた。そこには恰幅の良い店主がいて、私に「何が欲しいか?」と尋ねた。例のごとく欲しいものが無い私は何がおすすめか?と尋ねた。すると、彼の店にある貴金属の類を色々と勧めてきた。しかし、私の中で響くものは無かった。そこで逆に私から「インド特有の置物は無いか?」と尋ねた。すると店主はなんでそんな物が欲しいんだ?という顔をしたが、すぐに「それなら隣の店にある」と勧めてくれた。インドの店は紹介の連鎖が基本で、客が自分が取り扱っていないものを欲しているとわかると、どの地域に行ってもすぐに知り合いの店を紹介してくれた。

隣の店にはガラスのショーケースの中に沢山の置物が置かれていた。そしてそこには、学生と見られる若い日本人男性がいた。私は「なるほど」と思った。要はこの店は日本語を話せることを武器に日本人観光客を誘致しているのだ。店に入るとまたもや店員からのプレゼンテーションが始まった。熱心に商品の魅力を教えてくれるのだが、やはり私の胸に響くものは無い。欲しいものは無いし、店を出ようかと思ったのだが、ふと私の視界の隅に気になるものを見つけた。親指ほどの大きさしかない木彫りのガネーシャ像だったのだが、その緻密な作品にビビビと感じるものがあった。私は店員にそのガネーシャ像を見せてもらうよう頼んだ。手に取ると、更にその緻密さがわかる。しかも店員は私がその像を手に取ってもこれまで違い、全くプレゼンする素振りを見せない。私は、これは買いだと即決で購入した。すると、店の店員たちはギアが入ったかのように、見てほしいものがある、と店の奥に隠された紅茶葉を勧めてきた。明らかに怪しいだろうと思ったが、私はそもそも紅茶には興味がなかったので、No Thank youと良い、木彫りのガネーシャ像一つを購入し、店をあとにした。

店を出たあと、友人からは高い買い物をしたんじゃないかと聞かれたが、その後他の街で売られているガネーシャ像を見ても、私がこの時購入したものほど緻密な作品は無かった。

(つづく)

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